東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8038号 判決 1969年1月29日
原告
久保川昌幸
被告
日新ブロック工業株式会社
主文
1 被告らは、各自原告に対し金九二万三八九五円およびこれに対する昭和四三年八月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
2 原告その余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを五分してその一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の申立
一、請求の趣旨
1 被告らは、各自、原告に対し金一一七万三八九五円およびこれに対する昭和四三年八月二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言
二、請求の趣旨に対する答弁
原告の請求をいずれも棄却する。
との判決
第二、当事者の主張
一、請求の原因
(一) 事故の発生
1 昭和四三年一月九日午後一一時三〇分ごろ、原告は普通乗用自動車(以下、原告車という。)を運転して東京都大田区南馬込六丁目三七番地先第二京浜国道を神奈川県川崎市方面に向けて進行し、対面する―右道路上に設けられた横断歩道との交通整理のために設置された―信号機の信号が「止まれ」の表示をしたので、前車に続いて原告車を停止させたところ、後方より進行して来た被告山本健二こと蔡劇介(以下、被告蔡という。)の運転する大型貨物自動車(以下、被告車という。)に追突されて原告車を前方に押出され、右前車に衝突させられた。
2 右事故により、原告は鞭打ち症、両下肢挫創の傷害を負つた。
(二) 被告蔡の責任
被告蔡は、前方に対する注視を怠つて被告車を運転し、原告車等が停止しているのに気付かずに被告車を原告車に追突させて本件事故を惹起したものであるから、被告蔡には前方不注視の過失があり、民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。
(三) 被告日新ブロック工業株式会社(以下、被告会社という。)の責任
被告会社は、被告車を所有して自己のためにこれを運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告の本件事故による損害を賠償する責任がある。
(四) 損害
1 治療費
(1) 入院費投薬料等 金三六万一五〇〇円
原告は、前記傷害のため事故日の昭和四三年一月九日から同年三月五日まで、医療法人財団厚生協力会中里医院(以下、厚生協力会という。)に入院し、退院後も同年七月三日まで同会に通院して治療を受け、また三回にわたり東邦大学病院に通院して精密検査を受けた。
イ 厚生協力会関係 金三五万三一〇〇円
ロ 東邦大学病院関係 金八四〇〇円
(2) 通院費 金一万七四一〇円
前記退院および厚生協力会と東邦大学病院への通院に要した交通費
(3) 看護料 金四万三九七二円
原告は、前記傷害のため安静を要したので、昭和四三年二月一日から同年三月五日まで看護補助者訴外半田育代の附添看護を受け、その料金および紹介手数料として頭記金員を支出した。
(4) 諸雑費 金一万四一〇五円
原告が入院中支出した氷等の購入代金およびふとん等の使用料
(5) 診断書料 金一〇〇〇円
2 休業補償費 金一八万四四〇八円
原告は、本件事故当時、訴外日本熱学工業株式会社に自動車運転手として勤務し、平均賃金日額金一四〇七円六九銭余の給与を得ていたが、前記傷害のため昭和四三年一月一〇日から同年五月一九日まで一三一日間右会社を欠勤せざるを得なかつたので、その間の給与を支給されなかつた。
3 慰謝料 金六〇万円
原告は、何らの過失もないのに本件事故に遭遇し、前記のとおり入院五七日間を含む半年以上にわたる療養生活を余儀なくされた。原告のこの精神的苦痛を金銭に見積るときは、金六〇万円を下ることはない。
4 自賠責保険金の受領等
原告は、自賠責保険から金一〇万円の内払いを受け、前記厚生協力会関係の入院費等に充当し、また被告会社は、同会に入院費等として金九万八五〇〇円を直接支払つている。したがつて原告が本訴において請求する同会関係の入院費等は金一五万四六〇〇円である。
5 弁護士費用 金一五万円
原告は、以上のように被告らに対し金一〇二万三八九五円の損害賠償請求権を有するところ、被告らは任意の弁済に応じないので本訴の提起と追行とを本件原告訴訟代理人らに委任し、着手金として金五万円を支払い、また原告勝訴のときは報酬として金一〇万円を支払う債務を負担した。そして右弁護士費用も本件事故による損害というべきである。
(五) 結論
よつて、原告は、被告らに対し金一一七万三八九五円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年八月二日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二、請求原因に対する答弁
原告主張の請求原因事実中、第一項1、第二、第三各項、第四項4記載の事実は認めるが、その余の事実は不知。
第三、証拠関係〔略〕
理由
一、事故の発生および被告らの責任
請求原因第一項1、第二、第三各項の事実については当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により鞭打ち症、両下肢挫創の傷害を負つたことが認められるから、被告蔡は民法七〇九条、被告会社は自賠法三条に基づき、各自、原告が本件事故によつて蒙つた以下の損害を賠償する義務がある。
二、損害
(一) 治療費
1 入院費投薬料等
原告が自賠責保険から保険金一〇万円の内払いを受け、それを厚生協力会関係の治療費に充当したことおよび被告会社が同会に原告の治療費として金九万八五〇〇円を支払つたことについては当事者間に争いがない。そして〔証拠略〕によれば、原告は、前記傷害のため本件事故発生の日である昭和四三年一月九日から同年三月五日まで東京都大田区池上四丁目二六番六号にある厚生協力会に入院し、退院後も翌六日から同年七月三日まで同会に通院して治療を受け、治療費として金三五万三一〇〇円の債務を同会に対し負担したところ、うち金一九万八五〇〇円は前記のとおり保険金をこれに充当して支払い、あるいは被告会社が直接同会に支払つたが、残額金一五万四六〇〇円は同会の請求を受けながら未払いになつており、また同区大森西六―二―一にある東邦大学病院において脳波の検査を受け、その料金として金八四〇〇円を支払つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 通院費
〔証拠略〕によると、原告は前記退院時の厚生協力会から肩書下宿先までと昭和四三年三月六日から同月一四日までの間の八回にわたる右下宿先から同会までの通院の往復および同月一八日の同会から東邦大学病院までの往復にそれぞれタクシーを使用し、その料金として合計金九二五〇円を支出し、また同月一五日から同年五月一八日までの間の五一回に及ぶ下宿から同会までの通院の往復にバスと電車を使用し、その料金として一回金一六〇円宛合計金八一六〇円を支出したことが認められる。そして右退通院にタクシーを使用したことは、後記の如き原告の当時の症状ないし使用の必要性に照らし相当であるから、右通院費金一万七四一〇円は本件事故による損害というべきである。
3 看護料
原告は、前記傷害のため事故直後は意識がやや溷濁する等の症状にあり、二週間後ごろから右症状は若干良好となつたが、時に眩暈があつてその症状がほぼ退院時まで継続していたので、安静を要した。そこで昭和四三年二月一日から同年三月五日まで看護補助者訴外半田育代の附添看護を受け、その料金として同人の紹介手数料を含め金四万三九七二円を支払つた。右事実は〔証拠略〕によつて認めることができる。
4 諸雑費
〔証拠略〕によれば、原告は、前記の入院中、暖房等のため切炭金二七六〇円を購入したほか、氷代金九六〇円、貸ふとんの借料金五三八五円、貸テレビの借賃金五〇〇〇円を支出したことが認められるが、右切炭代、氷代、貸ふとんの借料はいわゆる入院雑費というよりは入院費そのものというべきであり、貸テレビの借賃も入院の期間等に徴すると必ずしも不当な出費とはいえずその金額も相当と思われるので、右雑費は全て本件事故による損害ということができる。
5 診断書料
原告は、厚生協力会医師訴外辺見武に診断書二通を作成して貰らい、その代金として金一〇〇〇円を支出したことが成立に争いない甲第三、第四号各証および原告本人尋問の結果により認められるところ、右代金も請求権実現のための費用として本件事故による損害と考えられる。
(二) 休業補償費
原告が本件事故による負傷のため昭和四三年一月九日から同年三月五日までの厚生協力会に入院し、退院後も同月六日から同年五月一八日まではほぼ毎日同会に通院していたことは前に認定したとおりであり、〔証拠略〕によれば、原告は、訴外日本熱学工業株式会社に自動車運転手として勤務し、平均賃金日額金一四〇七円六九銭余を同会社から支給されていたところ、前記傷害により同年一月一〇日から同年五月一九日まで一三一日間にわたり右会社を欠勤せざるを得なかつたので、その間の賃金金一八万四四〇八円を支給されなかつたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして右逸失賃金も原告の損害である。
(三) 慰謝料
前記の如き本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度等諸般の事情を考慮すると、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛に対する慰謝料は金四〇万円とするのが相当である。
(四) 弁護士費用
以上のように、原告は被告らに対し前記の保険金および弁済金を控除してもなお金八二万三八九五円の損害賠償請求権を有するところ、被告らがこれを任意に弁済しないこと弁論の全趣旨より明らかであり、原告本人尋問の結果によれば、原告は本訴の提起と進行とを本件原告訴訟代理人らに委任して着手金として金五万円を支払いまた原告勝訴のときは報酬として金一〇万円を支払う債務を負担したことが認められるが、前記請求認容額、本件事案の難易等本件にあらわれた一切の事情を勘案すると右費用中本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに負担させるべきものは金一〇万円をもつて相当とする。
三、結論
よつて、原告の被告らに対する本訴請求のうち金九二万三八九五円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四三年八月二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 倉田卓次 福永政彦 並木茂)